お休み処「わびすけ」

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介 護 殺 人

庭の梅の花が満開となり、河津桜のつぼみもほころび始めている。yjimageS1ZEZFA0背中を丸め、コートの襟を立てて歩く私たちを見下ろすように、寒さに耐えて凛として花を咲かせている。まさに我々に対して逞しさを見せつけているようでもある。

数日前に「介護殺人」(毎日新聞大阪社会部取材班刊)なる本を読破した。高齢者福祉の仕事に携わっている私にとっては、衝撃的な内容の本であった。この本に限らず、最近は貧困老人、困窮老人をテーマとした刊行物が多く出版され、我々の目を惹く。老人喰い、老人地獄、老人たちの裏社会、老後破産、老後親子破産、老人漂流社会、等々枚挙に暇がない。

日本老年学会と日本老年医学会は、現在「65歳以上」とされる高齢者の定義を「75歳以上」に引き上げるべきだとする提言を発表した。現在の前期高齢者とされている65~74歳については、活発な社会活動が可能な人が大多数だとして「准高齢者」に区分するように提案している。(日本経済新聞)

ここで75歳の人の平均寿命と平均余命を見てみよう。男性の平均寿命は約81歳、女性のそれは約87歳である。これが平成27年簡易生命表によると、75歳男性の平均余命は12年、女性にあっては16年となり、現在75歳の男性は平均寿命より約6年、女性は約4年長生きできることになる。しかし、平均寿命や平均余命と「健康寿命」とは別の話であり、yjimageDTMP497M大切なのは日常的・継続的な医療・介護に依存しないで、自分の心身で生命を維持し、自立した生活ができる「健康寿命」をいかに長く引き伸ばすかということである。因みに、男性は平均寿命80歳に対して健康寿命は71歳、女性は平均寿命86.6歳に対して健康寿命は74歳である。

ところがこの天命を在宅介護を行っているが故に自らの行為で短くしてしまったり、介護者の手で短くされてしまったりする多くの報告がなされている。つまり介護自殺、介護心中、介護殺人である。

平成27年度生命保険文化センターの報告によると、介護経験者の介護期間は平均4年11カ月、4年から10年未満の介護経験者は30%、10年以上の介護経験者は16%に上る。

また、インターネットインフィニティーが昨年行ったケアマネージャー730人を対象としたアンケートによれば、「担当した在宅介護の家庭において殺人や心中がおきてもおかしくない」と感じたケアマネが55%もいることが判明した。yjimageMWLSJKGGまた「介護者が心身ともに疲労困憊して、追い詰められている」と感じたケアマネは93%にも上り、追い詰められている理由に①介護者への暴力的な言動 ②介護者自らの不眠 ③うつ状態 ④経済的困窮 等が挙げられている。

この著書を読んで感じたことであるが、介護殺人、介護心中につながる在宅介護においては睡眠と経済的困窮が非常に大きなウエイトを占めていることは間違いないが、介護者の「私が介護しなければ」「この人の介護は私でなければ・・・」といった強い自負や責任感、強度の使命感、そして家族介護者による「抱え込み」も災いしているのではないだろうか。つまり社会資源をもっと活用して、レスパイトケア(介護者の休息)をとる勇気も必要であると考える。

我が田に水を引くようで恐縮だが、私どもの法人理念も「レスパイトケア」である。改めてこの理念を掲げたことによる責任感に身の引き締まる思いがする。

1月30日の読売新聞「編集手帳」にこのようなことが書かれてあった。

ー自殺で無くなる人の少ない地域が日本にはある。そんな研究を知った精神科医が、四国や東北など各地をめぐる旅に出た。自らの目と耳で理由を確かめるために。環境は様々だったが、共通点があった。人間関係は「疎にして多」 お付き合いはあいさつ程度でマイペース。でも、みんな顔見知りで孤立は起きにくい。

ー連想したのは、希望学で東大教授・玄田有史さんらが説く「ウイーク・タイズ」(弱い絆)の効用だ。苦境にある人が、家族や同僚ではなく、たまに会う人、違う価値観の持ち主の言葉で希望を取り戻すことがある。

ー速報値ながら、国内での自殺者は昨年、2万2千人を下回った。だが、自殺率は先進諸国の中ではまだまだ高い・・・

私はかつて「福祉概論」で学んだ「かつての日本の下町におけるコミュニティーの在り方」と重ね合わせずにはいられなかった。

伊藤 克之